AI導入支援で、最初にやったのはExcelの整理だった

先日、Anthropic社が「中小企業向けClaude(Claude for Small Business)」というサービスを発表しました。会計ソフトやチャットツールとつないで、AIが業務を代行してくれるというものです。こうしたニュースを見ていると、AIが中小企業にも手が届く時代になってきたんだなと感じます。

ただ、こうしたニュースを見るたびに、僕は現場で関わっている会社さんのことを思い出すんですよね。

商品マスタを開いたら「誰にも説明できない状態」だった

東北の小売業さんと一緒に手を動かした話

東北のある小売業さんで、基幹システムの刷新を一緒にやっています。

このプロジェクトに入って最初にやったのは、AIの導入でもシステムの選定でもなくて、商品マスタの整備でした。

商品マスタというのは、要は「うちの会社で扱っている商品の一覧表」です。商品名、仕入先、価格、カテゴリ……。どの会社にもあるはずのものなんですが、実際に見せてもらったら、なかなかの状態でして。

同じ商品なのに名前の表記がバラバラ。カテゴリの分け方がファイルごとに違う。「この列、何の数字ですか?」と聞いたら「たぶん前の担当者が入れたやつで……よくわからないです」という答えが返ってきたりする。

これ、別に珍しい話じゃないんですよね。10人くらいの会社で、忙しく日々を回していれば、データの整理が後回しになるのは自然なことです。

ただ、この状態でAIツールを入れたらどうなるか。

AIは「整理されたデータ」を食べて動く道具です。商品名がバラバラなデータを渡しても、AIは何が同じ商品で何が違う商品なのか判断できない。結果として「なんか使えないね」で終わってしまう。

「AIの話を聞きたかったのに、Excelの整理か」

それでも、ここを飛ばすとうまくいかない

こういう話をすると、がっかりされることもあります。「AIの話を聞きたかったのに、Excelの整理の話か」と。

でも、これが現場のリアルなんですよね。

僕が普段やっている仕事は、新規事業の立ち上げや業務の仕組みづくりを一緒にやる伴走型の支援です。福島の大熊町を拠点にしていて、東北を中心に何社かお手伝いしています。

で、どの現場に入っても感じるのが、「データが整っていない」「手順が人の頭の中にしかない」という問題は、規模の大小に関係なくあるということです。

別の現場でも、利用者データの管理がExcelの手入力で、集計のたびに担当者が半日かけて数字を突き合わせている、なんてことがありました。

こういう作業こそAIが得意なところなんですが、そもそもデータの形式が統一されていないとAIにも渡せない。「AIを入れる前に、まずデータを整える」。地味ですけど、ここを飛ばすとうまくいかないんです。

最初の一歩は「新人に説明できるか」

この問いかけが、業務整理のきっかけになる

じゃあ何から手をつけるか。

僕がいつもお伝えしているのは、「その作業、新しく入った人に説明できますか?」という問いかけです。

「このファイルを開いて、ここの数字をこっちに転記して、合計が合っているか確認する」——こうやって手順を言葉にできる作業は、AIとの相性がいい。

逆に、「なんとなく経験で判断している」「状況によってやり方が変わる」という作業は、まだAIには難しい。でもそれは悪いことじゃなくて、まず手順を書き出して整理するだけでも、引き継ぎが楽になったり、ミスが減ったりする。AIを使うかどうかに関係なく、意味のある一歩になります。

派手な導入より、無理なく続くやり方を

地方の中小企業には、地方のペースがある

「中小企業向けAI」のニュースが出るたびに、「うちも乗り遅れるな」と焦る気持ちはわかります。

でも、東京のIT企業とは違って、地方の中小企業には地方のペースがあります。ITの専任担当がいないのが普通だし、日々の業務を回しながらしか新しいことは試せない。

だからこそ、いきなり月額何万円のAIツールを入れるよりも、まず手元のExcelを整理するとか、いつもやっている作業の手順を書き出してみるとか、そういう小さいところから始めるほうが、結果的にうまくいくことが多い。

派手なAI導入じゃなくていい。無理なく続けられるやり方で、少しずつ業務を整えていく。その土台ができたときに、AIツールは本当の力を発揮してくれるはずです。

稲咲堂では、新規事業の立ち上げから業務の仕組みづくりまで、現場に入って一緒に手を動かす伴走型の支援を行っています。