はじめての補助金 ― 申請より、採択されてからが本番だった
補助金を初めて使うとき、たいていの人は「申請」のことで頭がいっぱいになります。
どう書けば通るんだろう。何をそろえればいいんだろう。調べてみると、申請書の書き方やコツをまとめた記事はたくさん出てきます。私も、最初はそうでした。
でも、事務局としていくつかの補助金事業に関わってくるうちに、だんだん思うようになりました。申請は、入口にすぎないんだな、と。本当にむずかしいのも、つまずきやすいのも、気をつけないといけないのも、採択されたあとのほうなんです。
採択の通知が届くと、ほっとします。ひと区切りついた気持ちになります。でも、補助金はそこからが本番です。お金の精算、対象になる経費の扱い、関係する機関とのやりとり。申請のときには見えていなかったことが、ここで一気に出てきます。そして初心者がつまずくのは、たいていこの「採択されたあと」のところなんです。
この記事は、申請書の書き方の話ではありません。採択されたあとに、初心者がつまずきやすいところを、事務局として実際に関わってきた立場から書いてみます。自分が読み違えて失敗したことも、そのまま書きます。これから補助金を使う人が、同じところでつまずかずにすむといいな、と思って。
第1部:申請の段階で、知らずにつまずくこと
採択されたあとが本番です、と書きました。
とはいえ、そこにたどり着くには、まず申請を通さないといけません。そして申請の段階にも、初心者が知らずに踏んでしまうつまずきがあります。ここでは2つ、書いておきたいと思います。どちらも、知っていれば防げるものです。
「いいことを書く」のではなく「聞かれていることに答える」
はじめて申請書を書く人がやりがちなのが、自分の事業の良さを、思いのままに書いてしまうことです。
その気持ち、よくわかります。やろうとしていることには熱意があるし、伝えたいこともたくさんある。でも、申請書は思いを語る場所というより、審査する人が、決められた見方にそって点をつけるための書類なんですよね。
補助金には、たいてい公募要領があって、そこに「何を、どう評価するか」という審査の観点が書かれています。初心者は、ここを読まないまま、あるいは読んでも資料に反映しきれないまま書いてしまいがちです。すると、熱意はあるのに伝わらない、ということが起きます。中身が悪いわけではなくて、審査する人が見たい順番や形になっていないだけ、ということが多いんです。
やることは、そんなにむずかしくありません。先に審査の観点を読む。その一つひとつに、「ここでちゃんと答えていますよ」とわかる形で書いていく。自分が言いたい順ではなく、読む人が確認したい順に並べ替える。それだけで、ずいぶん伝わり方が変わります。
これは特別な文章力の話ではなくて、相手が見たいものを整理して、その形に合わせて出す、というだけのことです。事業の中身を整理していくのと、考え方は同じだと思っています。
「すぐ動けば間に合う」とは限らない ― 相見積もりと、時間のこと
もう一つ、見落とされやすいのが、時間の見積もりです。
補助金によっては、経費を計上するときに「相見積もり」が必要になります。相見積もりというのは、ひとつの業者の見積もりだけでなく、複数の業者から見積もりを取って比べることです。その金額が妥当かどうかを示すために求められます。
初心者は、これを知らないままスケジュールを組んでしまいがちです。一社にお願いすればすぐ進むつもりでいたのに、いざとなると複数の業者に声をかけて、それぞれの見積もりが返ってくるのを待って、見比べて……という流れになります。これが、思っているより時間がかかるんです。相手にも都合がありますから、こちらの希望どおりにはなかなか進みません。
申請には締め切りがあります。事業にも、実施できる期間が決まっています。相見積もりにかかる時間を見込まずに進めると、ここで全体が詰まってしまう。最悪の場合、間に合わせようとして選定を急いで、納得しきれないまま業者を決めることになります。
なので、スケジュールには最初から少し余裕を持たせておくのがいいと思います。相見積もりが必要かどうかを早めに確認して、必要なら、その時間をはじめからスケジュールに入れておく。「動き出せばなんとかなる」ではなく、「動き出す前に、時間のかかりそうな工程を知っておく」。この順番が、あとで慌てないための分かれ目になります。
ここまでが、申請の段階で気をつけたいことです。そして最初に書いたとおり、本当に重いのは、この先――採択されたあとにあります。
第2部:採択されたあとに、一番つまずくこと
申請が通ると、ほっとします。
その気持ち、よくわかります。書類を整えて、審査を待って、採択の通知が届く。ここまでで力を使いきってしまう人も、少なくないと思います。
ただ、事務局としていくつかの補助金事業に関わってきて、これははっきり言えます。補助金は、採択されてからが本番です。そして初心者がつまずくのは、たいてい申請の書き方ではなく、採択されたあとの運営のところなんです。
ここでは、特に多い2つの落とし穴を書いておきたいと思います。どちらも、知らずに進むと、最後に「お金を返す」ことにつながりかねない話です。
安く済んだお金は、利益にはならない
まず、これが一番誤解されやすいところです。
補助金を申請するとき、収支予算書という、何にいくら使うかを書いた書類を出します。事業を進めていくと、予定より安く済むことがあります。コストを削減できた。見積もりより安い業者が見つかった。普段の商売なら、この「浮いたぶん」は利益になりますよね。
でも、補助金では、そうはなりません。
数字で見たほうがわかりやすいので、説明用にシンプルな例で書きます。総額2,000万円の事業で、その2分の1が補助される補助金だとします。予算どおりなら、補助されるお金は1,000万円です。
ここで、がんばってコストを削減して、補助の対象になる支出が1,000万円から700万円に減ったとします。では差額の300万円が手元に残るかというと――そうはなりません。減るのは事業全体の金額のほうで、総額が1,400万円に下がり、補助されるお金もそれに連動して下がります。差額は利益ではなく、はじめから存在しないお金、ということになります。
すでに補助金を受け取っていた場合は、使わなかったぶんを返すことになります。あるいは、支払われる金額が当初より引き下げられます。どちらにしても、安く済ませた努力は、利益ではなく「金額が縮む」という形になって返ってきます。
そして、この返金は、ただお金が出ていくだけの話ではありません。
補助金のもとになっているのは税金です。だから返金が必要になったときは、早めの対応が求められます。こちらの都合でゆっくり、というわけにはいきません。差額を整理して、書類を作って、関係する機関とやりとりをして精算する。この一連の作業が、事業がひと段落したあとに、まとめてのしかかってきます。対応が遅れれば、組織としての信用にも関わってきます。
補助金では、安く済ませること自体が目的にはなりません。予算どおりに、対象として認められる形で、きちんと使いきる。この前提を最初に知っているかどうかで、終盤の重さがまるで変わってきます。
「その経費、対象じゃありません」が、一番こわい
もう一つは、対象になる経費の確認です。これは、私自身が実際にやってしまった失敗の話を書きます。
ある補助金の公募に向けて、準備を進めていたときのことです。事業を回すうえで、人件費は当然かかります。だから当時の私は、人件費は補助金の対象経費に含められるものだ、という前提で、収支の組み立てを進めていました。
仕様書を、あとから読みました。
人件費は、その補助金の対象には入っていませんでした。前提が崩れたまま提出することになって、その公募は、通りませんでした。
何がまずかったのかは、はっきりしています。対象になる経費の範囲を、自分の思い込みで判断して、確認を後回しにしたことです。補助金は、事業に関わる費用なら何でも出る、というものではありません。何が対象になるかは、補助金ごとに仕様書や公募要領であらかじめ決められています。そこを読む前に組み立てを進めると、土台から崩れてしまうんですよね。
これは、まだ申請の段階で気づけたから、この程度で済んだとも言えます。もし採択されたあと、お金を使ったあとに「これは対象外です」と言われていたら、話はもっと重くなります。すでに支払った経費が補助されず、自己負担としてまるごと残る。受け取っていたぶんの返金につながることもあります。
なので、対象になる経費の範囲は、お金を使う前に――できれば組み立てを始める前に――仕様書で確認しておくことをおすすめします。少しでも迷う費目は、自分の認識を信じきらずに、交付元や事務局に問い合わせる。「使ってから考える」ではなく「読んでから動く」。この順番を逆にしないことが、あとで自己負担や返金、そして当時の私のように公募そのものを落としてしまうことを避ける、地味だけれど大事なポイントです。
この2つに共通すること
安く済んでも利益にはならないこと。対象外の経費は、あとから返すことになること。
別々の話のように見えますが、行き着く先は同じです。補助金で一番避けたいのは、終わったあとに「お金を返す」状況になることです。返金そのものの負担に加えて、そこに至るまでの精算作業、書類づくり、関係する機関とのやりとりが、ぜんぶあとからのしかかってきます。
申請が通ったあとに慌てないために、この2つだけは、走り出す前に頭に入れておいてもらえたらと思います。
補助金は、もらって終わり、ではない
ここまで、採択されたあとにつまずきやすいところを書いてきました。
安く済ませても利益にはならないこと。対象になる経費を、思い込みで判断しないこと。どちらも、知っていれば防げます。知らずに進むと、最後に「お金を返す」という重い形になって返ってきます。
補助金は、申請が通った瞬間がゴール、ではないんですよね。受け取ったお金を、決められた形できちんと使って、事業をちゃんと前に進めて、次につなげる。そこまでやって、はじめて意味があるものだと思っています。派手に決まることよりも、無理なく回って、続いていくこと。地味だけれど、結局はそこが一番むずかしい。
はじめての補助金は、わからないことだらけで当たり前です。大事なのは、わからないことを「使う前に」つぶしておくこと。仕様書を先に読む。迷ったら確かめる。順番を逆にしない。それだけでも、終盤の苦しさはずいぶん変わってきます。
この記事が、これから補助金に向き合う人の、ちょっとした手がかりになればうれしいです。