2026.09.06
「自分でやったほうが早い」が続くとき
事業をしている方と話していると、ある言葉がよく出てくる。
「自分でやったほうが早いんですよね」。
請求書の作成、お客さんへの連絡、在庫の管理、帳簿の記録。本業とは直接関係のない仕事が、毎日少しずつ積み重なっていく。誰かに頼めばいいのかもしれない。でも、説明する時間を考えると、自分でやったほうが早い。そう思って手を動かしているうちに、一日が終わっている。
個人事業主や小さな会社を経営している方には、この感覚に覚えがある人が多いのではないだろうか。
「任せられない」の正体
「自分でやったほうが早い」という言葉の裏には、いくつかの気持ちが重なっている。
ひとつは、説明のコストだ。自分の頭のなかにあるやり方を、誰かに伝えるのは思った以上に手間がかかる。「こうやって、こうして、ここに注意して」と説明しているあいだに、自分でやれば終わっている。だったら最初から自分でやったほうがいい。そういう判断は、短期的にはまったく正しい。
もうひとつは、品質への不安だ。自分がやれば間違いなく仕上がるけれど、人に任せたら同じ水準になるか分からない。結局、確認や手直しが必要になるなら、最初から自分でやったほうが安心できる。
どちらも自然な感覚だと思う。手を抜きたくないからこそ、全部自分で抱える。責任感が強い人ほど、この傾向は強い。
でも、この「自分でやったほうが早い」がずっと続くと、少しずつ状況が変わっていく。
忙しさの質が変わっていく
最初のうちは、忙しいことが充実感につながっている。やるべきことがたくさんあって、それを全部こなしている自分がいる。事業が回っている実感がある。
でも、ある時期を境に、忙しさの質が変わる。
朝から晩まで手を動かしているのに、「今日、何をしたっけ」と思う日が増えてくる。目の前の作業を処理することで精いっぱいで、本来やりたかったことに手が回らない。新しいサービスを考えたい。お客さんともっとじっくり向き合いたい。でも、事務作業に追われて、そこにたどり着けない。
個人事業主にとっていちばん大事な時間は、自分にしかできない仕事に使う時間だと思う。お客さんと話す、商品をつくる、サービスを考える。それが事業の核であり、自分が事業を始めた理由でもあるはずだ。
ところが、請求書や管理表やメールの返信に追われていると、その核の部分がどんどん後回しになっていく。忙しいのに、前に進んでいる感じがしない。それは、事業にとってもったいない状態だと思う。
書類仕事に追われていた方の話
以前、ある事業者の方から相談を受けたことがある。
その方は、事業そのものはうまくいっていた。お客さんも増えていたし、評判もよかった。でも、話を聞いていくと、表情がどこか疲れていた。
「毎月の書類をつくるのに丸一日かかるんです」。
報告書、請求書、管理表。それぞれ別のファイルに同じような数字を何度も入力している。やり方は開業したころに自分で考えたもので、最初はそれで十分だった。でも、お客さんが増えるにつれて作業量が膨れ上がり、気がつけば月の数日が書類仕事だけで消えていた。
「人を雇ったほうがいいですかね」と聞かれたけれど、話を聞いてみると、それ以前の問題だった。そもそもの作業の進め方に無駄が多かった。同じ情報を何箇所にも手で書き写している。ひとつにまとめれば、半分以下の時間で終わる内容だった。
一緒に業務の流れを整理して、管理表のつくり方を見直した。人を増やしたわけではない。やり方を変えただけだ。それだけで、丸一日かかっていた作業が半日で終わるようになった。
浮いた時間で、その方は新しいお客さん向けのメニューを考え始めた。「やっと自分の仕事ができる」と言っていたのが印象に残っている。
人に任せるのではなく、やり方を整理する
「業務を整理する」と聞くと、大がかりなことを想像する方もいるかもしれない。高い仕組みを導入したり、人を雇って任せたりしなければいけない、と。
でも、実際はもっとシンプルなことが多い。
たとえば、毎回同じ文面で送っているメールを、ひな形にしておく。あちこちに散らばっている情報を、ひとつの表にまとめる。毎月やっている作業の手順を、紙に書き出してみる。それだけで、「あれ、この作業いらないかも」と気づくことがある。
業務整理とは、いまのやり方を「見える形」にすることだ。頭のなかだけにあるものを外に出してみると、無駄や重複が見えてくる。そこを整えるだけで、毎日の仕事がぐっと楽になる。
大事なのは、「人に任せる」ことではなく、「やり方を見直す」ことだ。仕組みを整えれば、自分でやるにしても時間が短くなる。もし将来誰かに手伝ってもらうことになったとしても、整理されたやり方があれば、説明のコストは格段に下がる。
以前、「つくって終わり」にしない理由という記事で、ホームページを育てていく話を書いた。業務の仕組みも同じだと思う。最初に決めたやり方が、ずっとそのままでいいはずがない。事業が変われば、やり方も一緒に育てていく必要がある。
全部ひとりで抱えなくていい
「自分でやったほうが早い」は、間違いではない。実際、早いのだと思う。
でも、その「早い」が積み重なった結果、本当にやりたい仕事の時間が減っているなら、一度立ち止まって考えてみてもいいかもしれない。
稲咲堂では、業務の整理や仕組みづくりのお手伝いをしている。大げさなことをするわけではない。いまの仕事の流れを一緒に見て、「ここ、もっと楽にできそうですね」という部分を見つけていく。それだけのことだ。
全部ひとりでやらなくていい。それは、人を雇うという意味だけではない。やり方を整理するだけで、ひとりでもずっと楽に回せるようになる。
もし「最近、忙しいばかりで前に進んでいない気がする」と感じているなら、気軽に声をかけてほしい。話を聞くだけでも、何か見えてくることがある。
お問い合わせページから、いつでもどうぞ。