2026.10.16
「あの人がいないと回らない」はなぜ起きる?──業務の属人化と、その防ぎ方
「その仕事、〇〇さんしか分からないんですよ」
会社の中で、こういう言葉を聞いたことがある人は多いと思います。請求書の出し方、取引先への連絡のタイミング、Excelのこの列の意味。聞けば教えてくれるけど、その人がいないと誰も手が出せない。
これがいわゆる「属人化」です。特定の誰かに仕事の知識やノウハウが集中して、その人がいなくなると業務が止まる状態のこと。小さな会社ほど起きやすいし、気づいたときには相当進んでいることが多い。
今回は、なぜ属人化が起きるのか、そしてどうやって防げるのかを書いてみます。
属人化は、悪意で起きるわけじゃない
最初にはっきりさせておきたいのは、属人化は誰かが悪いから起きるわけではないということです。
むしろ、真面目に仕事をしている人ほど起きやすい。目の前の仕事を一生懸命こなしているうちに、やり方が自分の頭の中だけに蓄積されていく。忙しいから引き継ぎ資料をつくる暇がない。聞かれたら教えるけど、わざわざ文書にまとめる時間はない。
その結果、「あの人に聞けば分かる」が積み重なる。本人も周りも、それで回っているから問題に感じない。表面上はうまくいっている。でもそれは、その人がいる間だけの話です。
小さな会社ほど、なりやすい理由
大きな会社だと、部署があって、チームがあって、マニュアルがあって、引き継ぎの仕組みがある。それでも属人化は起きますが、少なくとも防ぐ仕組みがある程度は用意されている。
少人数の会社は、そもそもそういう仕組みをつくる余裕がないことが多い。一人ひとりの守備範囲が広くて、「あなたはこの業務だけやってください」とはいかない。経理もやるし、発注もするし、たまにお客さん対応もする。そうなると、一人の人が抱える「自分しか知らないこと」がどんどん増えていく。
しかも、少人数だと「別に自分がやればいいし」と思いやすい。人に教える手間をかけるより、自分でやったほうが早い。以前も書きましたが、この考え方自体は間違っていない。でも、それが何年も続くと、いつの間にかその人なしでは回らない状態になっている。
問題が見えるのは、その人がいなくなったとき
属人化のやっかいなところは、普段は問題にならないことです。
その人が毎日出社して、いつも通りに仕事をしていれば、何も困らない。困るのは、その人が病気で休んだとき、急に辞めたとき、異動になったとき。そこで初めて「あれ、この仕事どうやるんだっけ」となる。
自分がこれまで見てきたなかでは、こんなケースがありました。経理を一人で担当していた方が体調を崩して長期休養に入った。請求書の発行ルールも、振込先の一覧も、月次の締め作業の手順も、全部その方の頭の中にあった。残されたメンバーは、デスクの引き出しとパソコンのフォルダを探し回ることになった。
これは極端な例ではなく、小さな会社では珍しくない話です。
いきなりマニュアルをつくらなくていい
「属人化を防ぐにはマニュアルをつくりましょう」とよく言われます。正論ではあるのですが、忙しい現場でマニュアルを一から書き起こすのは、正直かなりハードルが高い。
業務整理の記事でも触れましたが、マニュアルは後からでもいい。まずやれることは、もっとシンプルです。
たとえば、「この仕事のやり方を、隣の人にも一回見せておく」。それだけでも、完全なブラックボックスではなくなる。あるいは、自分がやっている作業の手順を箇条書きでメモに残しておく。完璧じゃなくていい。「何もない」と「ざっくりでもメモがある」には、大きな差がある。
もうひとつ効果があるのは、「同じ仕事を、たまに別の人がやってみる」こと。やってみると「ここが分からない」「ここは聞かないとできない」が具体的に出てくる。それが、属人化している部分の正体です。全部を文書化するより、まずは「どこが属人化しているか」を知るほうが先。
外の目が入ると、見えてくることがある
属人化は、中にいると気づきにくいものです。毎日そのやり方でやっているから、それが当たり前になっている。「これ、自分しか知らないかも」という自覚がないことも多い。
自分が業務整理の仕事で最初にやるのは、「いま誰が何をやっていて、そのやり方はどこに書いてありますか?」と聞くことです。この質問だけで、属人化の度合いはだいたい分かる。「書いてあります」と答えられる会社はかなり少なくて、たいてい「〇〇さんに聞いてください」になる。
そこから一緒に整理していく。全部をいきなりマニュアル化する必要はないので、まずは「止まると困る仕事」から手をつける。在庫管理の仕組みをつくった仕事でも、商品情報を整理した仕事でも、最初にやったのは「いま何がどうなっているか」を見える形にすることでした。
「うちの会社、属人化がひどくて」と感じているなら、それは整理を始めるいいタイミングだと思います。相談は無料なので、まずは話を聞かせてください。